A1 (お薬の相互作用とはどんなことですか?)

薬を2種類以上同時に使用した場合,薬の組み合わせによっては作用が強く出たり、逆に効果が弱くなったり、場合によっては副作用が出やすくなったりすることがあります。これを相互作用と言います。相互作用はすべての薬でおこるわけではなく、また人によってその影響も異なりますが、危険な組み合わせもありますので注意が必要です。

A2 (相互作用はどんな仕組みで起こるのですか?)

薬が相互作用を起こす仕組みにはいろいろなものがありますが,大きく分けると,薬が吸収される過程,薬が血液中を運ばれる過程,薬が分解される過程,薬が排泄される過程でおこります。

(1) 薬が吸収される過程での相互作用
薬を飲んだ場合、食道から胃、さらに小腸へ移動しながら溶けていきます。溶けた薬は、主に十二指腸から小腸で吸収されますが、ある種の薬を一緒に飲むと,吸収されにくくなったり、逆に吸収がよくなったりします。吸収が悪くなれば効果が現れませんし、吸収が良過ぎると副作用が出たり中毒を起こしたりすることがあります。  たとえば、抗菌剤のニューキノロンと胃酸を中和する制酸剤を一緒に飲むと、制酸剤の中のアルミニウムなどがニューキノロンと結合して吸収が悪くなり、炎症などの治療に支障を来します。
また、消化器機能の異常を治療するプリンペランという薬は、解熱剤のアセトアミノフェンの吸収を促進して効き過ぎる恐れもあります。

(2) 薬が運ばれる過程での相互作用
吸収された薬は、血液中に入り血液中にあるアルブミンというタンパク質と結びついて、必要な臓器に運ばれて行きます。血液の中では、このアルブミンと結合した結合型と、結合していない遊離型があります。結合型は薬の効き目を発揮せず、遊離型になって始めて効き目を現します。遊離型が使われて少なくなりますと、結合型がアルブミンから離れて遊離型となり効き目を現すために使われます。このアルブミンと結びつく力が強い薬を一緒に用いますと、結びつく力の弱い方の遊離型が多くなり、作用が強く現われることがあります。
たとえば、血栓を作らないように使われる薬として、ワルファリンという薬があります。この薬は非常にアルブミンと結合しやすいのですが、消炎鎮痛薬のアスピリンなどのアルブミンと結合しやすい薬を同時に使いますと、遊離型のワーファリンが増え、その作用が強く出てしまいます。

(3) 薬が分解される過程での相互作用
血液の流れに乗って必要な場所に到着した薬は,そこで効き目を現しますが、役目の終わった薬は、肝臓で分解され効果がなくなります。これを代謝といい、薬物代謝酵素というものが関係しています。
薬によっては、この酵素の働きを強めたり、逆に弱めたりするものがあります。また、同じ酵素で分解される薬を一緒に用いますと、競い合って代謝が遅くなることがあります。代謝が早まれば、すぐに効き目がなくなりますし、代謝が遅くなれば、いつまでも効果が続いた状態になってしまいます。
例としては、抗ガン剤のフルオロウラシル系(5-FU)を飲んでいる方に、抗ウイルス薬のソリブジンを使ったために、16人もの死者を出したというソリブジン事件が有名です。ソリブジンには、これらの抗ガン剤を代謝する酵素の働きを抑える作用があったため、抗ガン剤の作用がいつまでも続き、ガンばかりでなく正常な細胞も死滅するという毒性が現れたものとされています。

(4) 薬が排泄される過程での相互作用
代謝された薬は,主として腎臓から排泄されますが、この部分でも相互作用がおこる可能性があります。糖尿病治療薬のクロルプロパミドと痛風治療薬のプロベネシドを一緒に使いますと、プロベネシドがクロルプロパミドの尿中への排泄を遅らせることがあります。そのため、クロルプロパミドが血液中に長くとどまり、その結果低血糖症状をおこすことがあります。

A3 (相互作用を防ぐことはできるのですか?)

全ての相互作用が分かっている訳ではありませんので、全くおこさないと言うことは難しいのですが、注意すべきことはあります。
相互作用が問題となるのは、相互作用をおこす組み合わせの薬を新たに使い始めたときです。新たな薬が追加されることによって、今まで使っていた薬が効き過ぎたり、効果がなくなったりするからです。逆に薬の種類を減らした場合も注意が必要です。今まで相互作用によって薬の作用が弱められていたのが、相互作用をおこす薬がなくなることによって、急に効果が強まったりするからです。
このように、薬を併用し始める時や減らすときには注意が必要ですし、相互作用を承知で医師が処方している場合もありますので、処方薬を飲んでいる場合は、自分勝手に飲んだり飲まなかったりすることはやめましょう。
また、一人の医師からだけ薬を処方されている場合は、相互作用についてもチェックされていると思いますが、複数の医療機関や診療科から投薬を受けている場合や、市販薬を併用する場合は、他にどのような薬を飲んでいるのかを主治医に伝え、院外処方せんをもらっている場合は、かかりつけの薬局を決めてそこで薬剤師に相互作用の有無をチェックしてもらって下さい。

A4 (薬どうしだけでなく、食べ物との間でも相互作用はあるのですか?)

最近の例では,高血圧や狭心症の治療に使われるカルシウム拮抗薬や抗不安薬のジアゼパムを、グレープフルーツジュースで飲むと、血液中の薬の量が多くなり,効き過ぎたり頭痛やふらつきなどの副作用が出ることが報告されています。この例の場合は、グレープフルーツに含まれるフラボクマロン類が、腸管での吸収過程でカルシウム拮抗薬を分解する酵素の働きを弱め、吸収が増加するためとされていますが、オレンジジュースやリンゴジュースには含まれていませんので心配いりません。
また、牛乳でもいろいろな相互作用が報告されています。角化症治療薬のエトレチナートや真菌症治療薬のグリセオフルビンのように、油に溶けやすい薬を牛乳と一緒に飲みますと、吸収が高まり中毒をおこすことがあります。
逆に、いろいろな感染症に使われる、テトラサイクリン系の抗生物質やニューキノロン系の抗菌薬と一緒に飲みますと、牛乳の中のカルシウムや鉄と反応して吸収されなくなり、効果が現われにくくなります。
さらに,胃では溶けないで腸に入ってから溶け始めるような工夫をした腸溶性の薬がありますが、これをアルカリ性の牛乳と一緒に飲みますと、胃の中で溶け始めることもあります。
牛乳は、脂肪やタンパク質を含むため、鎮痛薬などの刺激のある薬を飲む時には胃を保護するのでよいとも言われていますが、このように薬と相互作用をおこすこともあります。
ジュースや牛乳の他にも、コーヒーや緑茶,紅茶,コーラなどの清涼飲料水でも、薬との相互作用が知られています。相互作用をおこさないためにも、薬は水かぬるま湯で飲むようにして下さい。特に酒やビールなどのアルコール飲料は、危険な相互作用が多く知られていますので、酒で薬を飲むようなことは、絶対にやめて下さい。
飲み物以外の食べ物では、納豆とワルファリンの相互作用が有名です。ワルファリンは、血液を固まらせる作用のあるビタミンKの働きを抑えて、血液を固まりにくくする薬で、脳梗塞や心臓の弁置換手術をした後などに使われます。
納豆は、それ自体はそれほどビタミンKを含まないのですが、納豆に含まれる納豆菌は腸の中でビタミンKを大量に作るため、相互作用(ワルファリンの効果が弱まる)が大きく現われ、食べた後も3~4日は影響があると言われています。また、ビタミンKを多く含む健康食品のクロレラも同様に相互作用が現れるため、ワルファリン服用中は、これを摂取しないようにして下さい。ワルファリンは、その他にも薬や食品と相互作用をおこすことが知られていますので、必ず医師・薬剤師に相談して下さい。
その他には、ニューキノロン系抗菌剤のリネゾリドとチーズやワインとの相互作用、結核治療薬のイソニアジドと魚の干物の相互作用、抗てんかん薬のフェニトインと味の素の相互作用など、いろいろな関係が知られています。
ですから、薬を飲む場合は、薬と薬の相互作用をチェックしてもらうだけでなく、薬を飲んでいる時に注意しなければならない嗜好品や食品についても、医師や薬剤師にアドバイスを受けておいた方がよいでしょう。